シリコーンゴムの商品形状を検討するのに気を付けたいポイント。

今までシリコンゴムの特性の話、そしてシリコンゴムの製造の話、製造にかかる費用の話をしてきました。
今回はシリコンゴムの商品形状について考えてみたいと思います。

シリコンゴムの特性にてご案内した通り、シリコンゴムは耐熱性や耐寒性、無味無臭や安全性など多くの利点があり様々な商品や製品の素材として人気がありますが、反対に摩耗性が悪いだとか、引き裂き強度が弱いなどといったデメリットもあります。

今回はそんなシリコンゴムのデメリットを形状面で克服するための、様々なノウハウについてご紹介します。知っていれば防げた失敗も、知らずに製作して無駄なコストをかけないように、形状設計の際にはしっかりとポイントを押さえて検討しましょう。

その1 引き裂き強度を補強し強いシリコンゴム商品に!

シリコンゴムは引き裂きに対し非常に弱い素材です。単純なシリコンゴムシートを両手で切ろうとしても、なかなか切れませんが、ちょっとしたキッカケを与えると紙のように簡単に切れてしまいます。

この引き裂き強度はシリコンゴムの硬度(硬さ)によっても変わります。低高度(柔らかい)シリコンゴムの場合は引き裂き強度は強くなり、高硬度(硬い)シリコンゴムの場合は引き裂き強度が弱くなります。

それでは簡単に切れないように、シリコンゴムの商品をどのように設計したら良いかですが、2つの方法があります。

1つ目は、引き裂きのキッカケとなる箇所を除去してあげることです。シリコンゴムシートもキッカケがなければ引き裂く事は難しいですが、キッカケを与えたことで簡単に切れてしまいます。逆から言えば、キッカケを与えなければソコソコの強度を保ってくれるということになります。

上の図ではV字の中心がエッジで構成されております。このような形状ですと少しの力で右図のように簡単に切れてしまいます。

上の図は2つのサイズの違う円柱がつながっている形状です。円柱と円柱の接合部がエッジで構成されているため、シリコンゴムの高硬度材料を使用すると、その箇所をキッカケとして簡単に破損してしまいます。

これらの現象を抑えるためにはキッカケとなるエッジを取り除いてあげる必要があります。つまりエッジ部にフィレットをつけてあげることで強度が上がります。フィレットとは角を丸めることです。丸めることでキッカケを除去し商品の耐久性が強いものになります。また、フィレットをつけてあげることで、商品全体のイメージが柔らかくなり、親しみの持てる商品になってきます。

引き裂き強度を補強するために形状を検討しましたが、その他に材料を変えるという事も可能です。一般的にシリコンゴムと一括りでお話してますが、シリコンゴムの中にも様々な特性をもったシリコンゴムがあります。

その中に高引き裂きシリコンゴムという種類がありますが、この材料は一般的な汎用タイプのシリコンのデメリットである、引き裂き強度を改良したシリコンゴム材料です。実績としてはストラップ穴の部分やシリコンブレスレッドなどの強度が必要な製品において利用します。

ただし、高引き裂きシリコンゴムは汎用のシリコンゴムと比較して高価なため、製品コストが高くなってしまいます。したがって、形状検討にて対応できる場合は、なるべく形状にて切れを防止し、どうしてもの際には高引き裂きシリコンゴムを選定すれば良いでしょう。

その2 極端なアンダー形状を無くしてコストダウン

熱可塑性樹脂(プラスチック)の成形品と比較してゴム製品は「アンダー形状」でも成形できるという利点があります。このアンダー形状というのは成型/加工業界に携わらないと聞きなれな言葉かもしれません。

このアンダーという言葉を説明するには簡易型や金型つまりは型の加工について最初に説明します。

簡易型であろうと金型であろうと、型を加工するには代表的な加工機としてフライス盤などを用います。フライス盤とは簡単に言うとドリルの刃に似た専用の工具(フライスと呼ぶ)をフライス加工機にセットし、X軸(横方向)、Y軸(縦方向)、Z軸(高さ方向)に刃を回転させながら動かす事で、母材(金属板、軽金属板、樹脂板)を削っていく加工機です。

例えば、下の図の左にある緑色の形状のシリコンゴムを製作したい場合は、その形状を転写した型を作ります。型のイメージは下の図の右側になります。

型の母材(金属板や軽金属板、樹脂板)を加工機にセットし、フライスを動かす事で母材を加工していきます。今回の形状ではボールエンドミルにて加工するイメージを掲載してます。ボールエンドミルが回転しながら右の図のようにZ軸方向に下降し、母材を削っていきます。

それでは先ほどの形状を変えて、下図の左側のような形状にした場合にどうなるでしょう・・・

この形状だと加工できない箇所が出てきます。そうです、下部の曲がった箇所です。ここをアンダー箇所と呼びます。
※製品の配置を天地逆にしたり横方向に寝かしたりすれば、簡単に加工できますがここではそんな事は無視してください。あくまでもアンダーの説明になりますので!

フライス加工はくどいようですが、X軸、Y軸、Z軸にて動きます。ボールエンドミルを回転させながらZ軸方向に下降させても上記の白斜線部は加工できません。このような箇所をアンダー箇所と呼びます。このような箇所がある場合は、一番多い対策としてアンダー箇所で型を分割してしまいます。

今回の形状では半円の中央にて型を分割することで加工が可能になります。

このようなアンダー箇所があると、本来であれば上型と下型の2枚で構成される型が、もう1枚、中型が必要になり、加工としては上型1方向の加工、中板上方向からと下方向からの2方向の加工、下型1方向の加工となり当たり前ですが、型費用が膨らみます。

また、アンダー形状は製品を成形した際に形状によっては材料が上手くまわらずに不良となることや、成形後に型から製品を取り出す(脱型)ときに、切れなどの破損し不良になること、そして型の枚数が増えることで作業に手間がかかることから、成形コストも高くなります。

製品を設計する際には、可能であれば極力アンダー箇所を無くすことでイニシャルコストである型費用やランニングコストである成形費用を下げた方が良いです。

その3 細くて深い細溝形状を無くしてコストダウン

型を加工するフライス加工を上項にて説明しましたが、使用するフライス(刃物)は大きさと1回に削る深さは非常に大きく関係していきます。例えば刃の太さ(刃径)がΦ10mmの刃は、強度があるので母材を削るときに1回の突っ込み量を多く削れ(削る母材により突っ込み量は変わります)ますので、短時間で多く加工できます。反対に刃の太さがΦ0.5mmの細い刃では、刃が細いため1回の突っ込み量を大きくすると、刃が簡単に折れてしまいます。したがって、時間をかけてゆっくりと削っていくことになります。

つまり、細い溝形状などは削る量自体は少ないため、簡単に加工できるようにも思えますが、実際はかなりの時間が必要になります。時間がかかるという事はコストがかかる、つまりは費用が増大することになります。

このような細溝形状は型加工のコストが増大するだけではなく、シリコンゴム成形時には、材料がしっかりと回らない事による不良が発生することになり、不良率の増大を招きます。不良率の増大は製品コストにそのまま反映されコスト高になりますので、最初の設計段階で細く構成されてしまう箇所は、再検討のうえ、可能な範囲で太くすることをお勧めします。

その4 シリコンゴムのデメリットである埃やゴミを付きにくくする!

シリコンゴムは非常に静電気を帯びやすい材質です。静電気を帯びたシリコンゴムは空中にある埃を吸い寄せて商品に付いてしまいます。特にシリコンゴムの表面が鏡面(ピカピカ)の状態やフライス加工で加工した加工目がそのまま転写されている状態だと、よりゴミが付着しやすくなってしまいます。

この性質を利用した商品として、パソコンのキーボード掃除用シリコンブラシ等があります。掃除用であれば良いでしょうが通常の商品としてシリコンゴムにゴミが付着してしまうのは嫌です。

水道水で軽く水洗いしただけで簡単にゴミは除去できますが、放っておけば直ぐにゴミが付着します。

やはりゴミが付きやすい商品は改善しなければなりません。

このような場合はシリコンゴム商品の表面にシボを付けてあげると良いです。シボとはもともとは皮のしわ模様のことを指すようですが、我々成型メーカーでシボと呼ぶと一般的には商品の表面に凸凹の模様をつけることを指します。

このシボをつけた状態(表面シボ目)にする加工方法は大きく分けて2種類あります。1つ目は型にシボ目をつけて製品に転写する方法です。型にシボ目をつけておけば、必然的に製品にシボ目が転写されますので、成型されたシリコンゴム商品の表面はシボ目となります。

型にシボ目をつける方法の代表格はブラスト加工です。ブラストとはガラスや砂などで出来た小さな粒を専用のショットブラスト機を用いて、高速で型に吹き付け型の表面を荒らす加工です。粒子の材質とサイズにより型の荒らした状態は変わりますが、粒子のサイズは250μmから30μmあたりです。

粒子のサイズが大きければ大きいほど荒れた状態になります。

ブラストで荒らした型で製作したシリコンゴムの表面は凸凹形状となりますので、ゴミが付着する面積がフラット形状と比較して極端に少なくなるため付着しづらくなります。

この工法であれば型にブラスト処理を施しておけば製作する製品は全てシボ形状となり、最初のブラスト費用だけでコストは済みます。ブラスト費用は数千円程度となりますので安価で対策できる加工です。ただし、次に説明するシリコンコーティングと比較してゴミの付着は劣りますのでご注意ください。

2つ目はシリコンコーティングです。シリコンコーティングとは成型されたシリコンゴム商品の表面に溶剤などで希釈したシリコーンをベースとした塗料を表面に吹き付けてサラサラした感触を可能にする工法です。

この工法は成形された商品に1つ1つ施しますので、先のブラスト加工のようにイニシャル費用ではなく、製品コストに費用が上乗せされますのでコスト高になりますが、ブラスト加工より手触り感が向上し、埃が付きづらくなる利点があります。

なお、これら共通の問題点としてシリコンゴム自体が非常に摩耗性の悪い材料ということがあります。ブラスト処理したシリコンゴム商品もシリコンコーティングされたシリコンゴムもいずれも表面の形成はシリコンゴムになりますので、使用しているうちに摩耗します。摩耗されていくことにより当初のシボが失われてしまいます。

この摩耗性を改善するために、シリコン塗料に摩耗性の優れたウレタン塗料を混ぜて塗布するウレタンコーティングやフッ素塗料にて表面をコートするフッ素コーティングもありますが、コストが高くなります。特にフッ素コートに関しては基剤となるフッ素塗料が高額なため、雑貨品等で使用されている事は無いと思います。弊社では特殊工業用途以外での実績がありません。